2017.11.24金曜日

このエントリーをはてなブックマークに追加

コラムcolumn

世界に誇るアカデミー賞監督・滝田洋二郎の作品はなぜ、そんなにも温もりにあふれているのか?

嵐の二宮和也が最新主演映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」(11月3日公開)で初タッグを組んだのが、「おくりびと」でアメリカのアカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎監督。5年ぶりの新作公開に歓喜の声が上がる名匠の、作品の魅力を紹介します!

「ザ・サークル」
「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」
2017年11月3日(金・祝) 全国東宝系公開 配給:東宝
©2017 映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」製作委員会
©2014 田中経一/幻冬舎

二宮和也×滝田監督が初タッグ! 幻のフルコースを巡るミステリー

二宮和也、西島秀俊、綾野剛、宮﨑あおい、竹野内豊といった豪華俳優陣の共演が話題の「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」は、「天地明察」(2012年)以来5年ぶりとなる滝田洋二郎監督作品。 伝説的なテレビ番組「料理の鉄人」の演出を手掛けた作家・田中経一の小説を原作に、秋元康が企画し「永遠の0」(2013年)の林民夫が脚本を担当するなど、製作陣も錚々たるメンバーが集結しています。

“麒麟の舌”とは、一度食べた味を完全再現できる絶対味覚。 物語は、麒麟の舌を持つ2人の料理人が生きる、2000年代初頭の現代と1930年代の満州国という、2つの時代が並行して進みます。

“麒麟の舌”の持ち主である料理人・佐々木充(二宮和也)は、依頼人の“人生最後に食べたい料理”を再現して高額の報酬を得る、通称・最期の料理人。 その充の元に、もう一人の“麒麟の舌”の持ち主である日本人料理人・山形直太朗(西島秀俊)が1930年代に満州国で考案したという伝説のフルコース、“大日本帝国食菜全席”のレシピを再現するという依頼が舞いこみ、物語が動き出します。

70年の時を料理がつなぐ、異色ミステリー。 そのキモである、全112品からなる究極のフルコース“大日本帝国食菜全席”は、料理界の重鎮・服部幸應の全面協力によって映像化されたとあって、どれもフォトジェニックでおいしそう。見ているだけでお腹が空いてきちゃうんです。でも静かな映画なので、お腹の音が気になって集中できない、なんてことになってはいけません。ぜひお腹を満たしてから劇場へ。 そして、調理指導を受け練習を重ねたという二宮と西島の、料理人としての凛とした振る舞いが、物語に説得力をもたらしているのは、さすが。

また、2000年代と1930年代それぞれのパートで充と直太朗を支えるキャラクターも、配役が抜群。 充の唯一の理解者である大衆中華料理店の店長・柳沢健を、綾野剛が演じています。彼の充に対してにじみ出る優しさが素敵で、孤独を抱える充に健という存在がいてくれて本当によかったと、観ていてウルッとなります。綾野剛が軽快にチャーハンを炒める姿も板についていて、これもいい。 そして、直太朗を支える妻・千鶴を演じているのが宮﨑あおい。包み込むような優しさと意志の強さを持った女性を演じさせたら、彼女の右に出る人はいません。そんな彼女が劇中で料理の写真を撮ったりするんですが、某カメラのCMに出演しているだけあって、撮影姿がまた似合うんです。

充が関係者の証言をたどって真相を究明していくミステリアスな展開と、直太朗が仲間とレシピを作り上げていくドラマが重なり合っていくストーリーは、結末を簡単に予測できず、結末まで興味をかき立てられます。

そうして引き付けられながら、最後には深い感動が心に広がる本作。これから紹介する滝田洋二郎監督の過去作品からも、そんな温かみが伝わってきます。

「おくりびと」はなぜ、アカデミー賞を受賞できたのか? 滝田監督作品の魅力とは?

「おくりびと」
映画「おくりびと」【TBSオンデマンド】
© 2008 映画「おくりびと」製作委員会

滝田洋二郎監督の代表作といえば、言わずもがな「おくりびと」(2008年)でしょう。アメリカのアカデミー賞外国語映画賞受賞という日本映画史上初の快挙には、日本中が沸き立ちました。

そんな輝かしい勲章を手にした本作のモチーフは、“納棺師”。 オーケストラのチェロ奏者という華やかな仕事を失った主人公・大悟(本木雅弘)が、故郷の山形で新たに就いたのは、遺体を棺に納める“納棺”という仕事。妻の美香(広末涼子)にも本当のことが言えないまま仕事を続けていた大悟ですが、納棺師という職業に対して、あからさまにぶつけられる偏見の目に戸惑います。しかし、さまざまな納棺の現場を目の当たりにしていく中で、仕事に誇りを持つようになる大悟。そんな中、子供の頃に生き別れた父についての情報が、ある日突然舞い込みます。

筆者は顔中に家族からキスマークを付けられて送り出されるおじいちゃんのシーンが大好きなのですが、納棺の現場では、さまざまな愛にあふれた光景が描かれます。 死がテーマではありますが、決して暗くて悲しい映画ではなく、むしろ生きることへの希望を見出せるのがこの作品の大きな魅力。 「自分ならこんな風に送り出されたい」と思い、そのために周りにいる大切な人としっかり向き合う、そんなきっかけも生んでくれるのではないでしょうか。 そして、コメディが好きな監督ならではのユーモアがバランスよく散りばめられ、クスリとさせてくれます。

滝田監督は、成人映画の制作を経て初の一般映画に挑んだ「コミック雑誌なんかいらない」(1986年)で注目されたあと、1980~1990年代は多くのコメディ作品を発表しました。 鹿賀丈史と桃井かおりが夫婦役を演じ、お金儲けに夢中になる一家を描いた「木村家の人びと」(1988年)や、薬師丸ひろ子と真田広之が共演した「病院へ行こう」(1990年)、真田広之や山崎努が異国のクーデターに巻き込まれる商社マンを演じた「僕らはみんな生きている」(1993年)、矢沢永吉の初主演映画「お受験」(1999年)など、どれも話題作ぞろい。 コメディで多くの実績を積んだ経験が、シリアスとコメディのバランス感覚を生んでいるんですね。

また、「おくりびと」では“納棺師”というなじみの薄い題材を扱っていますが、描いているのは生きること、大切な人への思いといった、誰もが自分に置き換えられるような普遍的なテーマです。 それはたとえば、滝田作品の代表作の一つである、平安時代を舞台に陰陽師・安倍晴明(野村萬斎)の活躍を描いた「陰陽師」(2001年)でも言えます。鬼や怨霊、妖怪といったあやかしを“呪(しゅ)”の力で沈める陰陽師は、さすがに現実離れした物語だと思いますよね。でも真に描かれているのは、人を恨み、憎しみ、妬む心が人を鬼にしてしまうということ。そんな心に囚われた者の行く末が恐ろしいまでに描かれ、自らの心を顧みてしまうはずです。

ハリー・ポッターと賢者の石
木村家の人びと
© 1988 フジテレビジョン
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
病院へ行こう
© 1990 フジテレビ
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
お受験
© 1999 松竹/角川書店/衛星劇場

役者と信頼し合える滝田監督の人柄こそが、傑作を生む現場を作る

さまざまなインタビューや資料などを見る限り、いつも笑顔で優しい、大らかな人柄であるという滝田洋二郎監督。

「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」で初タッグを組んだ二宮和也は、「監督は、いつも役者の側まで来て、現場の温度感をわかってくださる方で、何よりも役者を信頼してくださる方でした」と語っています。 また、西島秀俊も「滝田監督は、明るくて優しい方」「滝田組の現場には、ポジティブさが常にあり、とても明るいんです」と言うように、滝田監督の現場では、役者との信頼関係が良好な空気を生んでいることがうかがえます。

そして、「『壬生義士伝』では好きなようにのびのびと演じさせていただきました」とコメントしたのが、堺雅人。 「壬生義士伝」で堺雅人がのびのび演じたというのが、新選組の沖田総司役。よく笑う快活さを見せたかと思えば、ふとした表情に闇を感じさせる芝居は圧巻で、殺陣のシーンもとにかくカッコイイんです。

そんな中、ある映画の舞台挨拶で「滝田洋二郎監督は、今まで出会った監督の中で一番厳しかった」と語ったのが、「バッテリー」(2007年)で俳優デビューを飾り、今では若手実力派と呼ばれる林遣都。初めて挑んだオーディションで3000人の中から主人公・原田巧役に抜擢され、才能あふれる中学生ピッチャーをフレッシュに演じていますが、演技初心者だけに厳しく指導されることも多かったようです。うまくできたときは同じくらいの愛情で返してくれたと言っていますが。ちなみに、林が出演したテレビ番組でコメント出演した滝田監督は、「見出した以上はずっと彼を見続けなければならないという覚悟はあるから、遣都も覚悟を持ってもらわなければ」と愛のあるエールを送っていました。 この師弟関係、素敵ですね。

まとめ

コメディ、時代劇、ヒューマンドラマなど、ジャンルはさまざまでありながら、滝田洋二郎監督が生み出す作品はどれも見終わったあとに温かい気持ちを感じさせてくれます。新作映画も楽しみですが、真田広之や山崎努といった豪華な面々がふりきった演技を見せてくれる過去のコメディ作品も、おすすめです!

最新記事