2018.07.27金曜日

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コラムcolumn

世界が新作を待つアニメーション映画監督・細田守。描き続ける家族映画は監督のプライベート発!?

万引き家族
「未来のミライ」
7月20日(金)全国公開 配給:東宝
©2018 スタジオ地図

「おおかみこどもの雨と雪」や「バケモノの子」などの大ヒット映画を生み出し、国内外から注目を集めるアニメーション映画監督・細田守。さまざまな家族を描いてきた細田監督の、3年ぶりの最新作「未来のミライ」が7月20日から公開中です!

妹に両親の愛を奪われた兄が出会ったのは、未来から来た妹!?

2018年5月に開催された第71回カンヌ国際映画祭の“監督週間”に選出され、世界初上映が行われた「未来のミライ」。受賞はなりませんでしたが、世界最大規模のアニメーション映画祭として知られるアヌシー国際アニメーション映画祭2018の長編部門コンペティションにも選出されたことは、世界からの期待の高さがうかがえます。

そんな細田守監督最新作「未来のミライ」は、小さな庭のある小さな家を舞台に、4歳の甘えん坊の男の子“くんちゃん”と、未来からやって来た妹“ミライちゃん”が織りなす不思議な兄妹の物語。生まれたばかりの妹に両親の愛情を奪われ、戸惑うくんちゃんは、庭で出会ったミライちゃんに導かれ、時を超えて自身のアイデンティティや家族の歴史を巡る冒険へと旅立つことになります。

監督自身「チャレンジ」というように、映画史においてもまれな4歳の男の子を主人公にした本作。そのきっかけは、当時4歳だった監督自身の息子の、妹が生まれた時のリアクションから来ているそう。くんちゃん同様に愛を奪われどん底に落ち、床を転げ回って泣き叫ぶ息子の姿を見て、これは愛を巡る“人間の普遍的な人生の話”になる、と思ったという発想力がすごいです。

おどけたりぐずったり暴れたり、4歳児ならではの仕草や言動が微笑ましいくんちゃん。そんなくんちゃんの冒険を通して、過去から未来への家族のつながりや生命の循環を描く、壮大で普遍的なストーリーへと展開していきます。

また、細田監督作品と言えば、毎回豪華なキャスティングが話題。本作も、くんちゃん役の上白石萌歌(かみしらいし・もか)、ミライちゃん役の黒木華をはじめ、星野源(おとうさん役)、麻生久美子(おかあさん役)、役所広司(じいじ役)、福山雅治(青年役)など、錚々たる俳優陣が作品に息を吹き込んでいます。特に星野源の頼りないおとうさんがはまりすぎて…イライラします(ほめてます)。

そんなおとうさんの職業は建築家なだけあって、くんちゃんたちの家はデザイン性が高くておしゃれ。その家の設計を、JCDデザインアワードやグッドデザイン賞などを多数受賞している注目の建築家・谷尻誠が担当したというから驚きです。そのほか、新幹線デザイナー・川崎重工業の亀田芳高や、「しろくまのパンツ」で知られる絵本作家tupera tuperaなど、多彩なジャンルのクリエイターがプロダクションデザインとして参加し、ワクワクする世界観を作り上げています。

身近な出来事から物語が生まれる、細田守流“家族映画”

細田守監督の名が広く知られるようになったのは、何度も実写映像化されている筒井康隆の同名小説を再構築し、初めてアニメ化した映画「時をかける少女」(2006年)でしょう。初週わずか6館での公開から、口コミなどで延べ100館以上に拡大し、40週におよぶ異例のロングランヒット。アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門特別賞をはじめ、国内外の映画賞を多数受賞しました。

時をかける少女
時をかける少女
© 「時をかける少女」製作委員会2006

そんな「時をかける少女」以降、3年ごとに話題作を送り出し、“3年に1度の夏の定番”となっている細田アニメ。「時をかける少女」から3年後に公開された細田監督初のオリジナル作品「サマーウォーズ」(2009年)以降は、最新作「未来のミライ」に至るまで、監督自身の実体験から生まれたアイデアをもとに、さまざまな“家族”を描き続けています。

監督が結婚し、相手の家族に挨拶に行った時の体験がヒントになったという「サマーウォーズ」は、“親戚”という斬新なテーマ。計算能力が取り柄の17歳の少年・健二(声:神木隆之介)が、長野の田舎で、あこがれの先輩・夏希(声:桜庭ななみ)とその大家族と共に、仮想世界“OZ(オズ)”から勃発した世界の危機に立ち向かう物語。親戚×ネット×アクション映画を組み合わせるという、これまでの映画史にないチャレンジがなされているのも細田作品の特徴です。 テレビ放送されるたびに、健二がクライマックスで発するセリフ「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」をSNSに一斉に投稿して盛り上がる、というのはもはやおなじみの現象。そのシーンに盛り上がりのピークを持って行く展開が見事なので、何度見ても気持ちが高ぶっちゃうのは仕方なし。健二と一緒にエンターキーを押して叫びたくなっちゃいますよね。

サマーウォーズ
サマーウォーズ
© 2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

身近で子供ができた夫婦が増え、母親がカッコよく輝いて見えたこと、親になることへのあこがれが着想のきっかけになったというのが「おおかみこどもの雨と雪」(2012年)。人間の姿をした“おおかみおとこ”(声:大沢たかお)との間に2人の子供を授かった花(声:宮﨑あおい)と、2人の“おおかみこども”雪と雨の、13年にわたる人生を描いた作品です。

子育てのアニメ映画というのも珍しいですが、生まれてから13年間という長い時間を2時間の中で描くのは、アニメーションならではの試み。監督自身の母への思いも込められているという本作は、エモーショナルな印象も強く感じます。おおかみこどもというファンタジー設定がおとぎ話に思えるかもしれませんが、キャラクターたちが迎えるのは誰しも直面する人生の選択であり、幅広い世代が共感できるはずです。ちなみに筆者は、花、雪、雨が雪原を駆け回るシークエンスの、音楽と映像の連動で描かれる疾走感、高揚感がたまらなく好きで、ココだけ何度もリピート再生しちゃいます。後の展開を知ってから見ると、ちょっと切ないですが…。前半のおおかみおとこにまつわる描写の衝撃も、このあたりでほぐれます。

おおかみこどもの雨と雪
おおかみこどもの雨と雪
© 2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

バケモノと少年の師弟関係を軸に、バケモノの世界での修行や冒険、渋谷を舞台にしたアクション、ヒロインとの淡い恋愛など、あらゆるエンタメ要素が詰め込まれた「バケモノの子」(2015年)。前作の公開後、監督自身に息子が誕生したことをきっかけに、「子どもがたくさんの人から影響を受けて成長していく様を、この映画を通して考えていきたい」という動機から始まった本作は、“父と子”がテーマ。血のつながりに限らず、子供の成長に影響を与えるすべてのキャラクターが“父親”の役割を担う存在として描かれています。

また、役所広司、宮﨑あおい、染谷将太、広瀬すず、大泉洋、リリー・フランキー、津川雅彦という、実写化したいほどの豪華すぎる声のキャストが集ったことも大きな話題を集めました。特に主人公・九太の少年期を演じた宮﨑あおいの声がかわいくて最高で、師匠である熊徹(声:役所広司)とのわちゃわちゃした言い争いはずっと見て&聞いていられます。

バケモノの子
バケモノの子
© 2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

そして冒頭でも紹介した細田監督の最新作「未来のミライ」は、兄妹×未来がテーマ。4歳の男の子が主人公ですが、子供が産まれたあとの夫婦の物語としても見ることができます。結婚観も家族観もさまざまで、多様性が叫ばれる現在、家族の“絆”というのはあやふやなもの。血のつながり、一緒に住んでいるだけではつながれない現代の家族の問題を、4歳の男の子の冒険を通して考えるきっかけを与えてくれます。

「万引き家族」是枝裕和監督と重なる、家族に対する視点の優しさ

自身の身近な出来事を起点にして、そこから多くの人に共通する出来事や問題を拾い上げ、リアルとファンタジーをもって描く細田守監督。そんな監督の作品は、アニメファンのみならず、幅広い世代が共感し魅了されています。時代と共に家族の形も変わり、描かれるテーマも変わっていきますが、細田監督の作品はどれもキャラクターたちが未来を切り開くバイタリティを持った存在として描かれているのが特徴。「時をかける少女」から「未来のミライ」まで、細田監督作品のメインビジュアルに必ず描かれている入道雲が、“主人公たちの成長”を象徴しています。そんな視点の優しさ、未来への希望を描き続けるポジティブさが、何度でも見たくなる細田作品の大きな魅力です。

ちなみに、細田監督と同じく“現代の家族”を描く監督といえば、「万引き家族」でカンヌ国際映画祭パルムドールを獲得した是枝裕和監督。共に1960年代生まれ、テレビ業界出身など共通点も多く、これまでもトークショーで対談するなど交流のある2人。今年のカンヌでも合流した様子が報じられるなか、お互い近いモチーフを描いていると話していました。人間や世の中を肯定するような優しい視点は、確かに通ずるものがあります。そんな日本を代表する二大監督の家族映画を、見比べるというのも贅沢では。

まとめ

細田守監督の描くテーマやモチーフを見ていると、いかに身近なところに物語の種が転がっているか、いかに身の回りに美しいもの、大事なものが秘められているか、改めて気づかされます。また、ご飯を食べているシーンに代表されるように、キャラクターたちの日常芝居がリアルなので、ここに彼らは生きているんだなと、すんなり入り込めるのがすごい。アニメを普段見ない人も、きっと新たな出合いができるはずです。

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