2018.11.29木曜日

コラムcolumn

【ひかりTV単独インタビュー】
原作愛を共有する山田孝之との映画「ハード・コア」は、山下敦弘監督にとって「第二のデビュー作」

山下敦弘

ドキュメンタリードラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」から続く作品で、世間をざわつかせてきた山田孝之×山下敦弘監督のコンビが、ともに愛読書であるコミックを映画化した「ハード・コア」が現在公開中。山下敦弘監督が語る原作への強い想いや、山田孝之、荒川良々、佐藤健ら出演者の印象とは? 「ぼくのおじさん」や「もらとりあむタマ子」といった過去の作品についてのコメントもお見逃しなく

構想10年!? 原作ファンの思いがついに形に!

ハード・コア
「ハード・コア」
2018年11月23日(金)全国公開 配給:KADOKAWA
©2018「ハード・コア」製作委員会

− 映画「ハード・コア」あらすじ
世間からはみ出しても、信念を曲げられずまっすぐにしか生きられない男・権藤右近(山田孝之)。唯一の友人・牛山(荒川良々)と共に、群馬の山奥で怪しい活動家たちと埋蔵金探しをするのが仕事。そんな2人が、古びた謎のロボット(のちに“ロボオ”と名付ける)と出会ったことで、右近の弟・左近(佐藤健)も巻き込み、大きな野望を実行に移すことに…。

平成初期の1990年代に生まれた原作漫画「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」(作:狩撫麻礼、画:いましろたかし)を、20年近く前に愛読していた山下敦弘監督。好きだからこそ、当初は映画化に複雑な思いを持っていたと言います。

ハード・コアハード・コアハード・コア
©「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」(作・狩撫麻礼 画・いましろたかし/KADOKAWA) ©狩撫麻礼 いましろたかし/KADOKAWA刊

「最初読んだ時はすごく感動して『おもしろい!』と思ったんですけど、当時、自分がすごく好きな漫画とかって、あんまり映像化したくなかったんですよね。逆にちょっと怖いというか、漫画は漫画で完成されてるから、という思いもあったんです。そこから『ハード・コア』を映画化したいと思い始めたのは、僕の大学(大阪芸術大学)の同期の寺内(康太郎)くんっていう監督が映画『デメキング』を作ったこと。それもいましろたかしさんの原作で、映画になったことがちょっと悔しかったんですよね。その時、『やっぱり好きな原作を人に映像化されるとちょっと悔しいんだな』と知って。『じゃあ自分は、何が好きだっけ?』と考えたら、『ハード・コア』だと思ったので、そこから映画化したいという気持ちになりました」

オムニバス映画「BUNGO~ささやかな欲望~」(2012年)の一編「握った手」で初めて組んだ山田孝之と、原作ファンであることで意気投合し、動き出した映画化の企画。完成した映画は、雑踏の中を歩く右近の姿に『狩撫麻礼×いましろたかし』という“創造主”2人の名前が大きく重ねられた映像から始まるように、最初から原作へのリスペクトがあふれています。現場では、監督が“原作を好きすぎる”ことで、これまでにない感覚を味わったそうです。

「自分がずっと好きだった原作の映像化って実は初めてに近いので、作る映画に対しての距離感が最初わからなくて。自分だけが熱くなってるんじゃないか、もっとみんなの意見を聞かなきゃとか、すごく考えちゃいました。普段は役者を演出するのが現場での役割で、もっとシンプルなんですけど、今回は全部やりたい、全部考えなきゃ、っていう変な力の入り方をしていた気がします。でも、キャストもスタッフも、うまい具合にみんながちゃんと答えを出してくれて、むしろ『ハード・コア』という原作に対しての距離感はみんなの方がわかってましたね。僕だけが一人熱くなっていたというか(笑)。最初からもっとみんなをちゃんと信用してればなって思います(笑)」

山田孝之、荒川良々、佐藤健が個性的なキャラを体現

監督と原作愛を共有し、本作の企画の立ち上げにも大きく関わった山田孝之。右近という役を体現する主演俳優であると同時に、プロデューサーとしてもクレジットされています。

ハード・コア
©2018「ハード・コア」製作委員会

「プロデューサーの仕事自体、何をやってるのかは人それぞれだと思うんですけど、山田くんに関しては、この映画の立ち上げからずっといてくれて、キャスティングの相談や予算の相談もしたり。本人が聞いてどう思うかわかりませんが、相談役というかご意見番というか、このプロジェクトが変な方にずれないように監視をしてもらうような役割だった気がしますね。最終的に編集も見に来てくれたりして、全体的にずっと一緒に監修してくれていました」

『山田孝之の東京都北区赤羽』や『山田孝之のカンヌ映画祭』では、並んで一緒に何かを作り上げる関係だった山田孝之と、改めて純粋に俳優×監督として向き合った本作。そこで山下監督が感じたのは、“照れ”。

「準備してる時はずっと横に山田くんがいる感じだったんですけど、撮影が始まってからは山田くんと向き合うから、ちょっと照れますよね(笑)。照れるというか、どうしよっかって最初思っちゃいました(笑)。実はあんまりやったことなかったなと思って(笑)。最初に山田くんとやった『BUNGO』の短編では役者と監督という純粋な関係性でしたけど、撮影が3日、4日だったので。あんなに見つめ合うのは何年ぶりだ、みたいな感じでした(笑)。まあまあ、やりながら慣れていきましたけど」

そんな“役者”山田孝之が演じた右近を見た印象とは。

ハード・コア
©2018「ハード・コア」製作委員会

「うーん、山田くんの右近は、やっぱり山田くんの右近だなって思いましたね。なんだろ…山田くんが考えた、山田くんの中にある右近というもので表現してくれてるなとは思いました。今回、僕が思う右近というのは、あんまり決めないでおこうと思ったんですよね。決めると絶対漫画通りになっちゃうので。でも今回山田くんは、映画『ハード・コア』としての右近を作ってくれたなと思いました。それがこの映画の中の軸になっています」

右近が唯一心を許せる友人・牛山を演じているのは、「生きていく上でのバイブル」というほど原作ファンである荒川良々。実は映画化が動き出す前から、監督直々にオファー済みだったようです。

ハード・コア
©2018「ハード・コア」製作委員会

「これも10年くらい前に(笑)、初めて一緒に飲んだ居酒屋で、『ハード・コア』の話で盛り上がったんです。『牛山、俺やります』って言ってくれたので『じゃあオファーします』って言って、ようやくですよ。すごいですね、そう思うと、けっこう重たい映画ですね(笑)。そういうこと(資料に)書けばよかったですね。昔の映画みたいに、『構想10年!』みたいな(笑)」

アウトローな兄・右近を放っておけないエリート商社マンの弟・左近役には、山田孝之に直々に口説かれ、「彼との兄弟役と聞いて2秒で出演を決めた」という佐藤健。

ハード・コア
©2018「ハード・コア」製作委員会

「左近役どうしよっか?、ってプロデューサーや脚本家と考えている時に、健くんの名前があがったんですけど、たぶんみんな原作の左近っぽいとはあんまり思ってなかったんですよね。だけど、山田くんとの兄弟役だったら面白いな、というのはみんな一瞬にして思ったんです。正解でしたね。この兄弟はちょっとおもしろいなって思います。なんだろうな…似てるとか似てないじゃない、同じ精子から生まれてきたっていうか(笑)。同じ親父から生まれてきたなって感じがすごくするんですよね。性格は違うんですけどね」

そして忘れてはいけないのが、右近と牛山の新たな仲間となる謎のロボット“ロボオ”の存在。AIの知識を持つ左近が驚くほど高性能でありながら、見た目はやたらデカくてちょっとボロい。

ハード・コア
©2018「ハード・コア」製作委員会

「いましろさんに『ハード・コア』をやりたいと話した時、『まあいいけど』みたいな感じだったんですけど、『ロボオは大丈夫か?』って、とにかくロボオを心配してました(笑)。脚本の向井(康介。監督の大学時代からの盟友)と心配したのもまずロボオで。あいつが留学(平成25年度 文化庁新進芸術家海外研修制度)してた北京で最初の打ち合わせをしたんですけど、着いてすぐ『ロボオどうしよっか』って北京を歩きながら話してました(笑)。(完成したロボオについては)原作はもっとでかいので、本当はもっと大きくしたかったんですよ。でも、右近のアパートに入らないとか、洞窟に入らないとかいろいろ問題がでてきたので、リアルなサイズになりました(笑)。あと思いのほか荒川さんがでかかったので(笑)、意外とロボオがでかく見えないんですよね」

30年前の物語に込めた、原作者の“今”の思い

約30年前に生まれた男たちの物語を、平成末期の現代で映画化するにあたりアップデートされた部分も。それが、右近と左近の生き方の哲学が激突し、居酒屋で殴り合いになるシーン。原作にはないセリフに、原作者の“今”の思いが詰め込まれています。

ハード・コア
©2018「ハード・コア」製作委員会

「あそこは二転三転していて。最初はもっと兄弟っぽいシーンというか、お互い殴り合いたくないけど殴り合っちゃって、意地の張り合いというか、認め合いたいけど認め合えなくて、涙…みたいな感じだったんです。でもそれはそれでなんか違うなと思って。それで、いましろさんに相談して『今、言いたいことありますか』と聞いてみたんです。そしたら『間違ってることを間違ってるって言えない世の中になっていくと、みんな考えなくなってバカになっていくぞ』ということをおっしゃっていて。それを(脚本の)向井がうまくセリフにしてくれました。だからあそこは今のいましろさんの気持ちが入っているんです」

では、山下監督から映画「ハード・コア」を見る人に伝えたい思いとは。

「僕はこの原作や原作の持つ世界観がすごく好きで…だから、『こういうお話なので、ここが見どころです』と提示するような次元の話じゃないんですよ。ある種の僕の“第二のデビュー作”じゃないですけど…とにかく無視しないでくれって感じですね。この映画とこの原作を。切り捨てたり無視するのは簡単なんですけど、せめて見た人は何か持って帰るものがある映画だと思っているので、見てほしいです。映画って本当は、面白いか面白くないかでいいと思うんですけど、僕にとってこの作品は面白いか面白くないかの次元では作っていない映画だっていうことだけは言っておきたいですね」

山下敦弘監督が語る、過去の監督作品5作

山下敦弘監督

映画「ハード・コア」に興味を持ったら、山下監督が山田孝之と組んだ過去の作品や、そのほか監督作もぜひチェックしてみてください。ピックアップした5作品を山下監督のコメント付きで紹介します!

■「山田孝之の東京都北区赤羽」(2015年)、「山田孝之のカンヌ映画祭」(2017年)、「映画 山田孝之」(2017年):“人間”山田孝之と過ごした記録

山田孝之が山下敦弘監督を呼び出すところから始まり、突飛な話に監督をずるずると巻き込んでいくドキュメンタリーシリーズ。 「山田孝之の東京都北区赤羽」では、赤羽で過ごす自分の姿を撮影させ、「山田孝之のカンヌ映画祭」ではカンヌ映画祭で賞をとりたいと言い出します。「映画 山田孝之」は、そんな山田の思考を言葉と映像で体感する異色作で、なんと3D映画として上映されました。

北区赤羽 

山田孝之の東京都北区赤羽【テレビ東京オンデマンド】

ビデオ番号:
57020 〜
視聴料金:
[レンタル]324円(税込)/7日

©「山田孝之の東京都北区赤羽」製作委員会

カンヌ映画祭 

©「山田孝之のカンヌ映画祭」製作委員会

映画山田孝之 

映画 山田孝之【テレビ東京オンデマンド】

ビデオ番号:
03438
視聴料金:
[レンタル]540円(税込)/72時間

©2017「映画 山田孝之」製作委員会

「『映画 山田孝之』も(ひかりTVで)配信されてるんだ!? あーなるほど(笑)。あの珍作が(笑)。この3作は、どっちかというと“俳優”っていうよりも“人間”山田孝之と過ごした記録なので、自分の中でも何か作品を作ったというよりも、その共有した時間を切り取って流してるというか…。だから、自分でもこの『山田孝之の東京都北区赤羽』とかを見ると、これを撮った時の夏を思い出すんですよ(笑)。そういう自分たちの、遅れてきた青春じゃないですけど…なんかそういった気持ちになる不思議なシリーズですね」(山下敦弘)

■「ぼくのおじさん」(2016年):松田龍平と作品を作れた幸せ

ぼくのおじさん

原作は、芥川賞作家・北杜夫の同名小説。インテリだけど変わり者のおじさん(松田龍平)が、しっかり者の甥っ子・雪男(大西利空)と共に、恋する女性を追ってハワイへ繰り出すチャーミングな冒険物語。

ぼくのおじさん

ビデオ番号:
12759
視聴料金:
[レンタル]432円(税込)/7日

©1972 北杜夫/新潮社 ©2016「ぼくのおじさん」製作委員会

「『ぼくのおじさん』、好きなんですよ。2を作りたかったのに、作れなかったんですけど…(笑)。今となっては利空くんもでかくなってますけど、この頃かわいいんですよ。松田龍平くんとこの企画で、一緒に作品を作れたのはほんと幸せでしたね。北杜夫さんの原作なので、北杜夫さんを信じてそのままやろうという気持ちが一番でかかったです。それまで、自分の作品をよく『山下ワールド』とか『独特の世界観』とか『間がある』とか言われてたんですけど、これはそういうのを全部捨てて作ったというか(笑)。そういう意味では、すごくとがってるというか、この頃の僕、強気だったなって感じがします(笑)。自分の『これおもしろいでしょ』っていう変な自我が出てないので、自分らしくなくて好きですね」(山下敦弘)

■「もらとりあむタマ子」(2013年):自分の自我が出ている強気な一本

もらとりあむタマ子

実家に“寄生”し、ただ食べて、寝て、漫画を読む、23歳無職のぐうたら娘・タマ子の日常を、秋から冬、春から夏へと移ろう季節と共に描いたオリジナル作品。元々は音楽チャンネルのステーションID(番組間で流れる放送局のイメージ映像)として作られ、長編映画化されました。主演は、山下監督と「苦役列車」(2012年)に続くタッグとなった前田敦子。脚本は「ハード・コア」と同じ、向井康介。

もらとりあむタマ子

ビデオ番号:
16114

見放題

©2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

「タマ子は『ほくのおじさん』と似てる感じなんですけど、これは、自分の自我がけっこう出てますね。『こういうのおもしろいっすよね』っていうのが(笑)。これはこれで強気な一本だなと思っています(笑)。でも、そもそも映画の企画じゃなかったので、ちょっと強気だったんですよね。そしたら途中から映画にしてくれと言われて、あわてて映画っぽくしたので、できた時は『これ映画って言っちゃいけないんじゃないですか?』ってプロデューサーにも言ったんです、尺も短いし。でも意外とみんな喜んでくれたので、今ではけっこう好きですね(笑)。まあこれは、この時期の前田敦子を撮れたのがすごくいいですよね。2年くらい前にあっちゃんと会ったら、『もうできない』って言ってましたね、タマ子(笑)。AKBをやめてすぐの時だったので、まだ女優でもなかった感じの彼女を撮れたのは、記録として面白いと思います」(山下敦弘)

村上虹郎
山下敦弘(やました・のぶひろ)
1976年生まれ、愛知県出身。2005年の「リンダ リンダ リンダ」がヒットを記録し、続く「天然コケッコー」(2007年)では第32回報知映画賞監督賞をはじめ数々の賞を受賞。その後も、「マイ・バック・ページ」(2011年)、「苦役列車」(2012年) 、「味園ユニバース」(2015年)、「オーバー・フェンス」(2016年)など話題作多数。

まとめ

映画「ハード・コア」のラストは、原作にはない新たな解釈がエピローグとして描かれています。最初は映画だけで楽しむのもいいですが、その後原作を読んでみると、より右近たちが愛おしく見えるのでオススメです。また、紹介しきれなかったVOD作品「苦役列車」や「オーバー・フェンス」もぜひ。

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