2017.11.21火曜日

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舞台『管理人』が11月26日からシアタートラムで上演開始

溝端淳平×忍成修吾×温水洋一
Special Interview

日本でもコアなファンの多い英国のノーベル文学賞作家ハロルド・ピンターの作品。その中でも世界的にも最も上演されている『管理人』が11月26日から東京・シアタートラムで上演される。出演する溝端淳平、忍成修吾、温水洋一に話を聞いた。

溝端淳平×忍成修吾×温水洋一イメージ
(撮影・蔦野裕)

− 舞台はロンドンにある家の一室。登場人物はガラクタを拾い集める男と、ガラクタを処分したい男と、ガラクタ同様に拾われてきた男。この3人が延々と繰り広げる話は部屋の話だったり、各々の人生の話だったり。個々の会話を取り出すと特段面白い話とは思えないのだが、全体を通すとえもいわれぬ不思議な読み応えを醸し出す作品となっている。ピンターは「不条理演劇の大家」と称される作家なのだが、果たして出演する3人はこの作品をどう読んだのか?

溝端(以下、)「難しいし、なかなかすぐに解釈できるものではないなとは思いました。読んでいくうちにだんだん分かってきてはいるんですが、また新しく分からない部分や疑問が出てくる。やるほうにとってはかなりハードルが高い作品だなという印象です」

温水(以下、)「僕も引き受けておいてなんなんですが、最初に台本をもらった時に、“この分量の台詞を覚えるの?”と思いました。まずそっちの“大変だぞ”という思いが正直ありました。それで10月中にとりあえず最後まで台詞を入れておこうという目標を立てました。そうしておけば後は演出の森(新太郎)さんがどうにかしてくれるだろうという、最初はそういう感じでした」

忍成(以下、)「最初に戯曲を読んだ時には、混乱しました。何度も読み返したんですが、読み進めては、“どういうお話だったっけ?”と戻って読み返すという感じ。本当に頭が混乱してしまって、途中で疲れて寝てしまったりしたこともありました(笑)。なかなか頭に入ってこないし、台詞の量もすごい。話の途中で、話の中身が変わっていくところもある。僕もこれは覚えるのは大変だろうなって思ったんですが、(徐賀世子訳の)上演台本を読んでいるうちに台詞の面白さを感じられるようになりました。3人の台詞がかけ離れている印象だったのが、例えば“間”があってあえて会話を変えているんだなというのが分かってきました。 “仕掛ける、仕掛けられる”ということがやりやすくなったという感じ。この本が面白いですし、好きですね」

溝端淳平
溝端「集中力が高い稽古場。疲れるけれどものすごく居心地がいい」

− 見る側も入り込みやすい感じ?

「そうですね。でも、入り込んでいただけるようにしなければいけない場所とたたみかけて置いていって、がっと引っ張っていく強引なところもあると思うので、すべてが分かりやすいというわけではないです」

「新訳での上演は初めてなんですよね。これまでにピンターの作品を読まれた方にとっては “こんなに分かりやすいお話だったのか”という印象を受けるかもしれないですね。僕も最初、出版戯曲を読んだ時には、言葉遣いからも、1959年に書かれて60年代に上演されていたということを感じるものだったし、やっぱり当時のロンドンというのもピンとこなかった(笑)。でも今の上演台本は、日本でもありそうな身近な感じのものになっている」

− ガラクタというのがひとつのキーワードとなっている。ゴミとか人間関係とか簡単に捨てられる人捨てられない人がいるが、皆さんは?

「僕は捨てるほうですね。家はすごくシンプルです(笑)。今はやりの断捨離。だんだんそうなってきましたね。人が散らかしているのを見たら、なんであんな…?って思います。喫茶店なんかで台本を読むことが多いんですが、一人で3つくらいテーブルを独占して、書類とか洋服とかカバンを広げている人がいるんです。そういう人を見ると “この人は多分、家でもこうなんだろうな”って思います。この前なんて、すごい風邪をひいている人が鼻をかんだティッシュをビニール袋にも入れずに山積みにしていて、びっくりしました。こういう人の家ってどうなっているんだろう、ってちょっと興味を持ったりしましたね。僕も若いころは汚かったんですよ。四畳半のアパートに住んでいて、ゴミ出しもしないときもあったんですが、今はゴミが散らかっているのは好きじゃないですね」

「僕もなるべく物は少なめにしています。読んだ雑誌とかも、読み終わったらすぐに捨てるようにはしています。なるべく家に持ち帰らないというか。ためないようにしています」

− 演じるミックとリンクするところもある?

「日常生活と役がリンクするということが必ずしもいいことかどうかは分からないですけど、この作品は日常生活とはリンクしない話、別世界という気がします」

「近所にも“この隣の家の人はかわいそうだな”って思うくらいのゴミ屋敷があるんですが、気持ちが分かるところもあるんです。そういうのってお年寄りのおばあちゃんだったりするんですよね。孤独ゆえにいろいろ集めてしまう。多分周りに言ってあげる人がいないから捨てられない。以前ドキュメンタリーでやっていたんですが、そういう家が汚い方って、すごい寂しがりやなんじゃないかなって思うんです。ただ単に片付けられないのではなくて、何かを抱えている人が多いということを聞いたことがあります」

「この作品を読んでいると、人によって価値観が違うということを感じます。忍成さんが演じるアストンはガラクタを拾い集めてきますが、別にだらしないとかではなくて、多分、ゴミに対する見方とか価値というものの目線が違うんだなという感じはします」

「リサイクルだもんね」

「そうなんです。ある意味すごく心の優しい人なんだと思うし、ボロボロのものでも何かに使えるんじゃないかって思う人。ただその能力がないだけ」

「僕自身はとっちらかっているほうです(笑)。でも極端です。まとめて捨てるという感じ。たまってきたら1個の袋に入れてぱっと捨てちゃう。始まったら止まらないって感じ。汚い時とやると決めた時は極端ですね」

自らが演じるアストンという人については?

「アストンは“ガラクタというものはいつか使える時のため―”って言っている。でもすべてが実行に移されていないというか、やりたいことができない人。温水さんが演じるデーヴィスという男についても、何かしてあげたくて連れてきたんだけど、結局どうしていいのか分からなくて逆に傷つけてしまう」

温水洋一
温水「不条理? じゃあ条理ってなんだ?って思うんです」

− 不条理という言葉は人によっても感じ方が違うと思う。皆さんはどんなことを思い浮かべる?

「僕は、じゃあ条理ってなんだ?って思うんです。不条理っていわれるようなちょっとおかしなことは日常でもたくさんある。この作品ではそれが切り取られてドラマになっただけ。そりゃ不条理なんでしょうけど、僕はこの作品についてはそんなに “不条理だな”とは構えていないです」

「日常的ですよね」

「うん。稽古をやっていくなかで今はそんなに不条理とは思わなくなりました」

「僕も不条理ということはあまり考えながらやっていないですね」

「特にこの上演台本を読んでからはそうですよね」

「みんなそれぞれ言いたいこと、やりたいことがはっきりしていて。それがただガチでぶつかっている『駆け引きのドラマ』というように思っています」

「お客さんが分かりやすい答えのようなものはないんだと思うんです。そこが不条理と取られれば不条理ですし、リアルと取っていただければリアルな気もします」

「演出の森さんが言っていたんだけど、最後に何も救いがないというかスカっとしない終わり方が不条理っぽいのかも」

「ひとつも前に進んでいないですよね」

− 今回は森新太郎が演出ということも大きな話題となっている。

「忍成君は森さんとは2回目なんだよね」

「すごい面白い切り口で演出をしてくださる人だと思います。自分で台本を読んでいて気づかないところでも“もっとこうなんじゃないの” ということを見せてくださる。それは演じる側からすると自分が思い描いていたものではないので苦しいことではあるんです。でも演じるということは自分が持っていたものを手放しはしないですけど、それを持ちつつさらにもうひとつの見えない扉を手探りで開いていくという作業。そこにたどり着くまでは頭の中がぐちゃぐちゃなんですが、ぐちゃぐちゃのまんま、それでもがむしゃらに進んでいくというのも苦しいながらも面白い。だから今はとてもいい稽古をさせていただいていると思っています」

「僕は演出を受けているときはあまり演出家を見ないんですけど、一瞬、森さんが目に入った時に台本を見ながら台詞を追っておられた。今の段階では台詞を耳で聞いて大事にされているのかなと思いました」

「“あ”と“ん”が一緒に聞こえるからちゃんと分けて、とか言われますよね」

「すごく細かいですね。最初は面倒くさいなって思ったんです(笑)。でも何回もやっていくと、それが自然に体にしみこんでくる。こういう演出はあまり受けたことがなかったので、僕にとっては新鮮ではあります。もちろん言葉を大事にする演出家はいっぱいいらっしゃいますけど、英語だと“あー”が“Yeah”になるから、みたいな言い方をされる方はいなかった」

「この“あー”はwellの連続だ、とかね」

「言葉を英語のように言わないといけない。ただ、まだ稽古が半分くらいなのでよく分からないところもある。プライベートな話も一切していないですし(笑)」

「ああ、そうですね」

「どういう人なのか、どこに住んでいるのか。年齢は経歴を見て知ったけど、全く分からない。(演劇集団)円の演出部におられることは分かっていますけど。まあこれからもっともっと密な稽古になってくると思うので、なるべくついていけるように頑張ります」

「僕のミックという役はロンドンの通りの名前だったり番地だったりバスの路線の名前だったり、家具の細かいチーク材の化粧板や法律のことや説明しなきゃいけないことをまくしたてなきゃいけない。そこが自分的には一番ハードルが高いんですけど、森さんは本当に腹をくくってやってくれているなって感じる演出家さん。やはり作品のことを誰よりも考えているし、役者のちょっとした疑問もすぐにくみ取ってくれて答えを出してくれる。毎回、僕は千本ノックに近いことをやっていただいているんですが、それが楽しい。毎回、“じゃあ次こうやってこっちを見よう 。次、こういう動きにしよう。足の組み方を逆にしよう。顔はこっち、こうやってみよう”というようなことを言われるんですが、言われたことをそのままのクオリティーで返したうえで、いかに自分のやりたいことも上乗せしてできるか、というせめぎあいが僕にとってはとても刺激的。森さんもどんどんどんどん課題を振ってくれるので永遠に終わらなくて心が折れそうなときもあるんですけど、それが本当にとても価値のある時間だなと思っています」

忍成修吾
忍成「2人の稽古を見ていると、あまりにも面白くて裏で笑っています」

− ピンター、不条理演劇という単語が並ぶと、ついつい構えて見に来るファンもいるかもしれない。

「大声を出して笑ってくれたらうれしいですけどね」

「僕は2人の稽古を見ていて、裏で笑ってますよ。あまりにも面白いので」

「確かに温水さんの役は面白いですよね。台本を読んでいる時でも既に面白かったんですけど」

「でも、笑わそうと思ってやっているんじゃないんだけどね」

「そこが面白いんですよ」

「苦しそうなんですけど」

「どんどん不条理に巻き込まれていく温水さんを見てかわいそうだなって(笑)」

上演台本も頭の中で3人を動かしながら読むと面白さが倍増した。実際に3人が目の前で動いている姿を見たら…と思うと初日が待ち遠しい。

(本紙・本吉英人)

『管理人』

【日時】11月26日(日)〜12月17日(日)【会場】シアタートラム(三軒茶屋)【料金】全席指定 一般6500円、高校生以下3250円、U24 3250円【問い合わせ】世田谷パブリックシアターチケットセンター(TEL:03-5432-1515=10〜19時[HP]https://setagaya-pt.jp/)【作】ハロルド・ピンター【翻訳】徐賀世子【演出】森新太郎【出演】溝端淳平、忍成修吾、温水洋一

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