2018.05.21月曜日

presented by

このエントリーをはてなブックマークに追加

注目の人People

鬼才ウェス・アンダーソンが最新作『犬ヶ島』に込めた“日本人だけの特典”とは?

野村訓市
(原案/キャスティング)

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督が、架空の日本を舞台に描くストップモーションアニメが誕生! 本作の原案からキャスティング、声優の録音まで(!)に携わった本作のキーマン野村訓市を直撃。アンダーソン作品ならではのチャーミングさと、イマジネーション豊かに描かれるジャパンテイストが生み出す、新たなアンダーソンワールドの舞台裏を聞いた。

野村訓市
撮影・蔦野裕

野村訓市
(原案/キャスティング)

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督が、架空の日本を舞台に描くストップモーションアニメが誕生! 本作の原案からキャスティング、声優の録音まで(!)に携わった本作のキーマン野村訓市を直撃。アンダーソン作品ならではのチャーミングさと、イマジネーション豊かに描かれるジャパンテイストが生み出す、新たなアンダーソンワールドの舞台裏を聞いた。

「みんなでご飯を食べるときはもう親戚の集まりみたいな感じです(笑)」と野村訓市は“アンダーソン組”との関係を語る。

「ウェス、ビル・マーレイ、ジェイソン・シュワルツマンと僕の4人はお互いに長い付き合いなので。作品を作っている間は皆がそろうと必ず一緒に夕飯を食べていましたね。夕食後は行きたい人で飲みに行くんですけど、ウェスはたまに参加しても午前2時くらいで帰ってしまい大抵ビルと僕が明け方まで飲んでいます(笑)」

犬インフルエンザが大流行するメガ崎市ですべての犬は島に隔離されることに。愛犬スポッツを探す少年アタリは単身、島に乗り込みそこで出会った犬たちとスポッツを探すのだが…。チャーミングな冒険物語が、アンダーソン流の独特なユーモアとともに見たことの無い架空の日本で繰り広げられる。このユニークな作品はいかにして生まれたのか。

「最初はウェスとジェイソン(シュワルツマン)の話の中で、ゴミ捨て場に犬がいるというアイデアから話が作れないかというところから始まったそうです。なぜそんなところに犬がいるのか、どこから来たのか、どうやって集団になったのか、その面々はどんな過去を持っているか…そんなふうに、一つのイメージから湧いてくる疑問を次々と膨らませて話を作っていったらしいんですが、あるとき話が詰まってしまった。そのとき日本を舞台にするというアイデアが浮かび、どんどん話が進んでいったんだそうです。これは行けるぞとなったときにウェスから僕に、日本の映画を作るから手伝ってくれと連絡が来たんです。一行のメールで(笑)。ウェスのメールが短いのはいつものことなんですけど、どういう状況なのかどんな作品を作るのか、どんな役割をしてほしいのかさっぱり分かりませんから、嫌な予感はしていたんですが…いいよと返事したのが運の尽きでしたね(笑)。気づいたら3年が経ち、その間に僕のやることがかなり増えていました(笑)」

野村に託された仕事は多岐にわたった。原案への参加、キャスティング、声優、果ては録音まで!

「脚本の第1稿が上がってきてセリフを半分日本語にするというので、日本語の部分を書きました。すると日本語のセリフにどれくらいの時間がかかるか知りたいというので、まず僕が全日本人キャラを仮でアフレコしました。すると、お前の声が一番、悪い感じがして小林市長役にぴったりだからこのまま使うと。僕はろくに演技もしたことないし、そもそも君たち日本語演技の良し悪しも分からないでしょと思ったんだけど、聞けば分かる、イメージ通りだと言うので、小林市長役もやることになりました。そうこうしているうちに、他の日本人キャストの声もそろえてくれと。それなら、ウェスと僕らのように和気あいあいと一緒にご飯を食べることができる日本人キャストチームを作ろう、と思ったんです」

結果、野田洋次郎や渡辺謙、夏木マリ、村上虹郎といった顔ぶれがビル・マーレイやエドワード・ノートン、フランシス・マクドーマンドやスカーレット・ヨハンソンらと“共演”を果たすことになった。

「皆ウェスとは会ったことも無いし、本国が秘密主義なので脚本どころか担当するセリフの前後すら伝えられない。どんな人物を演じているのかも定かでない。それを僕が、もう少し早口でとかサポートしつつ録音したんです、iPhoneで(笑)」

そんな状況でもハリウッドと日本のキャストたちは完全にアンダーソンワールドに入り込み、その独特なセンスを見事に体現している。

「ウェスの映画に参加する人で、その全体像を見えている人は誰もいないとハリウッドの人もよく言いますね。パズルのピースになったような感覚とでもいうのか。自分がどのピースなのか何の絵なのかさっぱり分からないんですが、完成したときにピースの一つとして大きな絵の一部になった喜びを感じるんです。ちょっとマゾ的な喜びですけど(笑)。皆ウェスのあやつり人形みたいなものですね。あの人の頭の中には明確で完璧なイメージが出来上がっているので、話が急に変わったり撮影が延びるということも無い。監督によっていろいろあると思いますが、ジャズとクラシックの違いみたいなものでしょうか。それぞれが個性をぶつけ合い言い争ったり高め合ったりする現場もあるけど、ウェスの場合はすごく細かい指揮者とオーケストラ。パートを別々に演奏したあと全体的に聞くと自分が素晴らしい演奏の一部になっていた、という感じですね。ウェスは常々、日本で映画を撮りたいと言っていました。僕はそれが実写だといいなと思っていたんですが、こうして出来上がってみると確かにこの作品は、完全にコントロールできるアニメのほうが向いていたと思いました。ただやっぱりウェスが撮る実写の日本も見てみたいですけどね」

この映画はウェス・アンダーソンが作った“日本映画”だ、と野村。

「舞台は日本で登場人物も日本人だから彼らのセリフはもちろん日本語。現実には犬と人間は言葉でコミュニケーションをとることができないわけで、それを表現するのに別々の言語を話すというアイデアはすごく面白いと思いました。だから、基本的に他の国での吹き替え版では犬は現地の言葉に吹き替えられます。犬たちはフランスではフランス語、イタリアではイタリア語になりますが、日本人のセリフは日本人キャストが話す日本語のままです。つまり、この映画の全体を理解できるのは、世界では唯一、日本人だけなんです(笑)。ウェスからのちょっとした贈り物だと思っています」

(本紙・秋吉布由子)

『犬ヶ島』

監督:ウェス・アンダーソン 声の出演:ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン、エドワード・ノートン他/1時間41分/20世紀フォックス映画配給/5月25日(金)より全国公開http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/ 
© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

最新記事