特集 Special Feature

[特別企画]アニメーション制作の世界を知る!

映画『鹿の王 ユナと約束の旅』 映画『鹿の王 ユナと約束の旅』
映画『鹿の王 ユナと約束の旅』 2/4[金] 全国ロードショー!

Story

かつて東乎瑠(ツオル)帝国から恐れられていた戦士団“独角”の頭・ヴァンは戦いに敗れすべてを失い、囚われの身となっていた。ある日、山犬の襲撃を受けるも混乱に乗じて脱獄に成功。その最中、自分と同じように家族を亡くした少女ユナと出会う。一方、謎の病〈黒狼熱(ミッツァル)〉がツオル帝国で猛威を振るいつつある中、ツオルの支配下であるアカファ王国では、ある陰謀が動き出していた…。

安藤雅司監督 スペシャルインタビュー

Masashi Ando Interview

「精霊の守り人」などで知られる上橋菜穂子の「鹿の王」が、日本アニメ界最高峰のスタッフの手によりアニメ映画化される。それが映画『鹿の王 ユナと約束の旅』だ。監督兼キャラクターデザイン・作画監督を務めたのは、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』、『君の名は。』に作画監督として携わった安藤雅司。共同監督には、『千と千尋の神隠し』では演出助手、「伏 鉄砲娘の捕物帳」では監督を務めた宮地昌幸。そしてアニメーション制作は、「精霊の守り人」「獣の奏者エリン」で上橋作品を映像化してきたProduction I.Gが担う。アニメーション好きなら必ず観ておきたい作品に仕上がっている。
そんな感動巨編を生み出した安藤雅司監督に、本作の見どころや、アニメーション制作において大切にしていることなどをインタビュー。作画に携わるクリエイターだからこその視点も知ることで、もっと作品が楽しめるはずだ。

“キャラクターがキャラクターらしくあること”を意識

――安藤さんにとって、初監督作品となる本作。本作において、最も重視した点はどこでしょうか?

ヴァンとユナの出逢いによって始まる作品なので、この2人の物語が“どう帰結していくべきか”というところを考えました。その上で、上橋菜穂子さんが書かれた原作が持っている圧倒的な情報量をどうやって2時間に収めるか。削らざるを得ない、だが原作が持つ情報のボリュームの手応えや感触を残しておかなければ、それは『鹿の王』ではない。その組み立てにはとても苦心しました。監督を務めたことで、改めて作画監督の見方との違いも発見できたように思います。監督の視点は、作品全体を俯瞰しなければいけない、そんな立場だけに、作画監督だけでは見えていないものがたくさんあったと感じました。

――作中では、キャラクターのお芝居をすごく丁寧に細部にわたって描かれているように感じました。例えば、夜の団らんをしているシーンで、ユナが村人たちの膝を転がるように渡っていき、最終的にヴァンの膝の上で落ちつくシーンなど、リアルな描写が印象的でしたが。

お芝居への向き合い方は宮崎駿監督や高畑勲監督の作品から刺激を受けていると思います。あのシーンのユナはヴァンと村の人々とのつながりのきっかけを作る存在なんです。それをどんなシチュエーションで、どう動かせば説得力を与えられるか、そのリアリティにこだわりました。また、それぞれのキャラクターも、その人がその人らしくあるということはすごく大事だと考えているので、キャラクターデザインの時から人物として“どういう佇まいをしているか”はすごく考えました。ヴァンは頼りがいのあるシルエットになるよう意識しましたし、そこに寄り添う小さな存在であるユナという、二人のコントラストも大切にしました。

――ユナとのコントラストがあるから、ヴァンは昨今のアニメではあまり見かけない、骨太な主人公の印象が強く出てくるのでしょうか。

今の流行りのキャラクターデザインに寄せていくなら、ヴァンはもっと細身で切れ長の目とかでもよかったかもしれないのですが、『鹿の王』に関しては、ヴァンの持つ“存在感”を重視したデザインが良いと判断しました。

主人公・ヴァンの声は切望した人選

――本作では、主要キャラクターの声を堤真一さん、竹内涼真さん、杏さんなどそうそうたる俳優陣が務めていますね。

ありがたいことです。みなさん本当に素晴らしくて。特に、堤さんに関しては私が切望したキャスティングなんです。ヴァンというキャラクターの創造材料を考えていた時に、堤さんの声が浮かび、“まさにヴァンだ”という確信があって。実際お会いしてアフレコ収録に臨んだ時には、“思った通りだ”という素敵な感触を得られました。

  • ヴァン
  • ヴァン(CV:堤真一)

    戦士団“独角”の頭で、生き残った最後の戦士。自分と同じように家族を亡くした少女ユナと出会い、生きる目的を取り戻していく。

    堤真一
    すでに原作を読んでいたという堤は「この壮大な世界観が大好きでした。実写化は難しいだろうと想像していたので、こうやって関われたことがうれしく、また、ご縁を感じましたね」と語っている。
  • ユナ

    ユナ(CV:木村日翠)

    身寄りのない少女。山犬の襲撃から生き延び、ヴァンに救われる。穏やかに過ごしていたが、山犬たちに連れ去られてしまう。

  • ホッサル

    ホッサル(CV:竹内涼真)

    世界を侵食する謎の病“ミッツァル”の治療法を探す天才医師。

  • サエ

    サエ(CV:杏)

    ミッツァルの抗体を持つヴァンを追う狩人。

宮崎駿をはじめ、そうそうたる監督から受けた刺激とは…

――本作もですが、監督の作画はどれも望遠レンズで撮影したような画も印象的のように思いますが、意識されていますか?

自分が絵を作る時のベースにあるのが、望遠の画面なのかもしれません。望遠にすると、照光量が圧縮され、奥行きの中にいろんな情報が詰め込まれていく。情報が詰め込まれるということは、絵としては豊かなものになるので、私的には魅力的な画ということにもなります。

――なるほど。本作で、監督が最も思い入れのあるシーンを教えてください。

そうですね…。中盤でユナがさらわれ、ヴァンがユナを追い求めて黒いうねりの中に突っ込んで腕を伸ばすシーンです。物語の軸がヴァンとユナですので、引き裂かれる場面では気持ちとして盛り上がってほしいと思いながらシチュエーションをセッティングし、作画(チーム)に伝えました。

――先ほど、宮崎監督や高畑監督の仕事から刺激を得たとおっしゃっていましたが、その都度の経験が次の作品に反映されていくことは多いのでしょうか?

どちらかというと自分の身に染み付いているという感じですかね。作画監督という立場で話しますと、飛鹿(ピュイカ)の脚の運びなどは『もののけ姫』から影響を受けていますし、レイアウト(そのカットに登場するキャラクターや背景の配置)のパースの取り方では、押井守監督の『イノセンス』の作画監督・沖浦啓之さんとお仕事した経験が生きているのかなと思います。沖浦さんは「ここまでやるのか!」と思うほどレイアウトにこだわる方なので、これは新海誠監督の『君の名は。』の現場でも影響したかもしれません。

  • 飛鹿(ぴゅいか)
  • 飛鹿(ピュイカ)
    気性が荒く扱いにくいが、断崖絶壁をも颯爽と駆け下りることができる俊敏さを持つ。

――『君の名は。』のどういったところで影響が?

建物のスケールを考える時に、たとえば畳が何畳の部屋だから、この広さだと襖(ふすま)は何枚、柱は何本じゃないとおかしいのではないか、というところがついつい気になってしまって指摘することがありました。

――なるほど。それが『鹿の王~』に登場するリアルな建築物にもつながっているんですね。

『鹿の王~』ではそこまでこだわったつもりはないのですが、沖浦さんからの影響は無意識に出てしまい、知らず知らず「ここはこうなんじゃないか」と指示している自分がいることに、自分でも驚きました(笑)。

「アニメーションだからこそ見せられるテーマもある」

――紙での作画をやっていらっしゃる安藤監督にとって、デジタル制作をメインとされている新海監督とのお仕事から得たものは、どんなものでしょうか。

アナログである私は、撮影や仕上げなど、どうしてもそれぞれのセクションのスタッフに頼らなければいけないのですが、新海監督はご自身が美術だったり撮影だったり編集だったり、デジタルであるが故にそれらを1人でやることが可能になっている。『鹿の王~』を制作している時に、新海監督がどんな技術を組み合わせてあの画を作ったのか、想像することがちらほらありました。今後デジタルメインの現場にどんどん移行していくと思いますが、デジタル制作はデジタル制作で、別の形で色々な方の力を借りながら作品を作っていくということには変わりはないと思っていて。根本的な作品作りは変わらないと思う一方で、私達の時代にはなかった技術には目を見張るものが多くあり、若くて才能のあるアニメーターもどんどん生まれていますから、私もますます頑張らなければと思う所存です(笑)。

――本作でも若手アニメーターから刺激を受けたりもしましたか?

もちろんです。今回お願いした若手に関して言うと、私たちの頃の“原画を描くルール”みたいなものに縛られていない。縛られずとも非常にいい動きを生み出してくれる人たちでした。これまでは、中割り(原画と原画の間を自然な動きでつなぎ、動いているように見せる画や作業)を前提として、ポイントを切り抜くような原画を描くということが暗黙の了解だったのですが、若い方々は原画枚数を多く描き、そうした手順を踏まずとものびやかな動きを作り出してくれました。それによってシーンを演出するうえで画が作りやすいことが多く、時代が違うんだなと感じると同時に、非常に刺激になりました。

――監督が、アニメ制作において最も大切にしていることは何でしょうか。

やはり、作品へいかに真摯に向き合うか。その中で、その作品の重要な部分はどこか。また作品ごとにそこに必要とされるリアリティを見つけ出す作業も本当に大切なことだと感じます。それは決して写実的という意味ではなく、内面的なリアリティであったり、ある程度デフォルメされていても、しっかり重みや面白さを感じられるものという意味でです。アニメーションだからこそ、誇張した表現だからこそ見せられる真実味やテーマもある。これからもそんな説得力を感じられる作品を作っていきたいですね。

――最後に、作品を楽しみにされている方にメッセージを!

皮肉にもコロナ禍での公開となりました。本作でも、まん延した病の中で人がどう振る舞うのか、どう生きていくのかというテーマが描かれます。私自身、『鹿の王』のような題材に出逢えることはなかなかなく、地に足のついたハイファンタジーもジブリなど以外ではなかなか関われないジャンルです。そこで監督を務めさせていただいたことに幸運を感じるとともに、ぜひ皆さんにも劇場へ足を運んで、この世界観を感じて頂ければうれしく思います。

取材・文/衣輪晋一

  • 安藤雅司(あんどう・まさし)
    1969年、広島県生まれ。大学在学中にスタジオジブリに入社。数々のジブリ作品に参加し、フリーになってからは、『パプリカ』(’06年)では作画監督、『君の名は。』(’16年)ではキャラクターデザイン・作画監督など、多くの作品で活躍の場を広げている。
  • 安藤雅司(あんどう・まさし)

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